八千代くんのものになるまで、15秒


むすっとしたまま何も言わない私に、八千代くんは困ったように笑う。

「俺のこと好きに呼んでいいのに」なんて、簡単に言うよ。

恐れ多いんだよ、下の名前で呼ぶなんてっ。




「私は……八千代くんって呼ぶ……」




そう言うと、仕方ないなぁとでも言うかのようにまた小さく笑って、彼は隣の席に座った。

「帰らないの?」と聞くと、「倉木が不貞腐れてるから」って。



「こうやって俺と話してれば機嫌直るかなって」

「……私そんなに単純に見える?」

「意外とね。俺と一緒にいるのは嫌?」



そんなこと聞かなくても分かるくせに……。

机に頬杖をついて、ほんの少し上目で私の答えを待つ八千代くん。
その姿もどこか様になっていて、こういうところ、ずるいなって思う。




「……むしろ嬉しい、です……」

「良かった」




にっこり、八千代くんは笑みを浮かべて、私は彼のそんな笑顔にぽーっと頭をぼんやりさせるだけ。

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