八千代くんのものになるまで、15秒
……とにかく。
皆んなが見てみぬふりをしている中で、八千代くんだけは違った。
声をかけてくれた。
一緒にローファーも探してくれた。
屋上に続く階段の踊り場の隅に隠されてたローファーを見つけて、
『見つかって良かった』って、優しく笑ってくれたよ。
「あの時の八千代くんの笑った顔が忘れられなくて、気付いたら目で追ってた」
そんなことがあったから、今年同じクラスになれて本当に嬉しかったの。
「八千代くんって、あの時から変わらず優しいよね。こうして私に付き合ってお話ししてくれるし……」
笑いながらそう言うと、スイッチを切り替えるみたいに、八千代くんはスッと目を細めた。
「──優しくないよ。」
「え?」
暖かくて、柔らかかったのに。
いつの間にか、これ以上近付いてはいけないような、そんな妖しい雰囲気を纏ってる。
こ、これ、前にも見た。
妖しい八千代くんだ……
「倉木のローファーを隠した子の気持ち、分からなくもないし」
「えっ、と、」
「腹立つよね。好きな子が他の人に夢中になってるとこ見るとさ」