八千代くんのものになるまで、15秒
ただ今日は風が強いから、梢の言う通り早く食べて教室に戻った方が良さそう。
「はぁ、八千代くんのキスマークが気になって午後の授業集中出来ない」
「本人に聞けば良いじゃん」
「えぇ……無理だよ、話すのは緊張する」
「面倒くさいなぁ」
「こずえ〜、冷たくしないでよぉ」
そうこう言いながらお弁当を食べ終え、教室へと戻った。
午後の授業で使う教科書を鞄から出しながら八千代くんの方をチラリと見る。
もうお昼は食べ終えたようで、いつもの黒革のカバーがかけられた本を静かに読んでいた。
例のキスマークについて色々聞きたいところだけど、デリカシーない奴だと思われたくないしな……。
ていうか、そもそも話しかけられないし。
隣の席ならまだしも、窓側と廊下側の席じゃわざわざ話しかけに行くのも不自然。
「蓮」
心の中でため息を吐くと、後ろの扉から声をかけられた。
聞き慣れたその声の方を向くと、思った通りの人物が顔を覗かせていた。
「どしたの」
「電子辞書、貸してくんない?次の授業で使うんだよ」
「いいよー。ちょっと待ってね」