八千代くんのものになるまで、15秒
席を立ち、廊下へと出る。
ロッカーの鍵を開けて辞書を渡すと、幼馴染の瑛士は「さんきゅー」と笑った。
「ていうか、わざわざ声かけなくてもいいのに。瑛士なら勝手に取っていいよ」
アンタ私の鍵の番号も知ってるんだから。
幼馴染だし、気にしないでいいのに。
「腹いっぱいになって眠そうにしてる蓮の顔も見たかったから」
「アンタってやつは……」
本当、小さい頃から変わらないよね。
いっつも私のことからかってくる。
「じゃあこれ、借りてくわ。また返しにくるよ」
「うん。……あ、瑛士っ」
自分のクラスへと戻ろうとする幼馴染を呼び止めると、瑛士は不思議そうに首を傾げた。
「今日は私二者面談あるから、先帰ってて」
「おー、りょーかい。んじゃ」
手を振って自分の席へと戻る。すると、前の席に座る梢から視線を感じた。
「なに?」と聞くと、「いや、面白いなぁと思って」とか変なことを言う。
面白いって……なにが?