八千代くんのものになるまで、15秒
梢には言われたくない!
なんて、そんな言葉は飲み込んで。
体育祭用のカラフルなクラスTシャツを着ている生徒達とすれ違いながら私が向かったのは救護用テント。
「──八千代くん、」
後ろの方から名前を呼ぶと、同じクラスTシャツを着た保健委員の八千代くんが振り返った。
私のことを見て、いつものように仕方ないなぁって笑って、
「もうどこかケガしたの?」って、言ってくれる。
「保健室の先生は?」
「向こうで他の先生たちと話してる」
「ふぅん……」
「俺に何か用?」
「ううん。会いに来ただけ」
「はは。なにそれ」
テントの下で、八千代くんが柔らかく笑う。
その笑顔に私の胸がキュッと鳴ったのを感じた。