゚・*:Plesance Sinfonia:*゚・
アリスは血の気が引く思いがした。

この世界を救おうとしている自分が何故、一国の姫君を攫わなければならないのか。
そんなことをしたら洒落にもならない。

しかしハニーは冷静沈着だった。


「ど、どういうこと・・・?」


やっとのことで開いた口が放ったのはその一言。
アリスは自分でも間抜けだと思えた。


「双子の姫の名はリルとエヴァ。

根暗で人気もクソも無い、国務をこなすだけで愛想のかけらも無い非情女のリル。
そして天真爛漫で誰からも愛される花のようなエヴァ。

俺たち【深緑の薔薇】は前者、リル・イニーネを誘拐する。」


「冗談じゃないわよ!!!
なんで私たちがそんなことの手伝いしなくちゃいけないのよ!

さっさと解放して!!!この野蛮人!!!」


アリスが威勢よく言ってもザックは涼しい顔で笑っていた。

なんだか怒鳴った自分が恥ずかしい。
所詮子どもだとナメられているのだろうか。


「お譲ちゃん、残念だがお前に拒否権は無いんだよ。」


「どういうこと?」


「そこのウサギさんに聞いてみな。」


アリスは首をハニーの方に向けた。

ハニーは罰の悪そうな顔でシルクハットを目深に被った。


「申し訳ありません、アリス嬢・・・。
貴方に危害を加えないという条件の代わりに、その盗賊めの要求を・・・。」


「呑んだの・・・?」


「お許し下さい・・・。」


アリスは額に手を当てた。

仕方無いことだがやり切れない気分だった。


「うん・・・ありがとう。私の為にそう言ってくれたのよね。
わかった、誘拐でもなんでもするから。
そのかわりそれっきりだからね!その後は一切関わらないから!」


「物分りのいいお譲ちゃんとウサギの紳士で嬉しい限りだ。」


ザックはまたにやりと笑った。
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