ﾟ･*:Plesance Sinfonia:*ﾟ･

そのルビー色の目の先には、見たことも無い現実があった。
現実離れしたその奇異な姿にアリスは息を呑む。

そこには怪物がいた。

頭を二つ持ち、四足で歩きながら、四つの目がぎょろぎょろと辺りを伺っている。
体は大きく、なぜかはわからないが継ぎ接ぎだらけだった。
涎を垂らしのしのしと歩く様はアリスに恐怖を与えた。


「何・・・あれ・・・？」


ガチガチと音を立てる歯を食いしばり、アリスはハニーに問いかけた。

恐怖に駆り立てられハニーの服の裾を掴むアリス。
しかしハニーは涼しい顔をして怪物を見つめている。


「あれは“ヂチキ”。
貴方を捕らえるために放たれた追っ手の一人です。」


追っ手？もうわからないことだらけで頭がぐしゃぐしゃだ！
言いようの無い感情がこみ上げる。


「アリス嬢、先程も言いましたが今は説明している時間はありません。
私と共にこの世界を離れる覚悟を！」


「・・・いいわよ。行く。
どこにだって行くから兎に角助けて！」


するとハニーは不敵な笑みを浮かべた。


「よろしい。行きましょう、アリス・ヴァレンタイン。」


アリスは何故かその笑みを見たときに懐かしさを覚えた。

実を言えばハニーがニヤリと笑う様は少々不気味だ。
しかしそんなことは微塵も感じなかった。


この兎なら助けてくれる。
きっと何があっても守ってくれる。


そんなことを思えたほどだった。



すると突然、突き刺さるような狂気を感じた。

アリスは視線をヂチキへと移した。


「！！！」


声ともならぬ咆哮と共に、ヂチキが地響きを従えてこちらへと向かってきたのだった。