記念写真を一枚
彼の、笑顔をここ数週間見ていなかった。

全員が、薄々どこかおかしいと感じている。

やんわりと言おうと何回もしたが、その度に苦しそうな顔をしているので言うにも言えず。

豚平さんをそこまで追い詰めているものがなんなのか知ることすら出来なかった。

挙句の果てには幹部全員と距離を空けられている……気がする。



前のように一緒にご飯へ行かなくなったし、和嶋先生が飯を奢ると言ってもついて行かなかった。

バイキング料理にもやんわりと断りを入れて、カグラ農場すら行ってないらしい。


「豚平さん……少し時間空いてます?」

「っあ、今日はちょっと部下に頼まれごとされたから、また今度でええ?」


彼のスケジュールを部下に聞き、逃げ場をなくしてから書記長室へ入る。

自分を見た豚平さんの目は、怯えと不安が混じっていた。


「……嘘ですよね?」


彼にこんなことを言わせたくないし、嘘を言われたくなかった。

ただ、何よりも彼の笑顔が見たかった。


「何があったんですか。皆、心配してます」


幸雄さんや皐月さんなんか半泣きになってたし、和嶋先生も動揺をかくせていなかった。

修さんにいたっては自分の事じゃないのに不安で眠れなくなっていたようだ。

まあ、眠りが浅くなったのは自分も同じだが。


「努、君。な、で」

「……豚平さんは、強いひとです。だからこそ、全て抱え込もうとするんですよね。一回、俺らに預けてくれません?」


頼ることが苦手なのだろうが、それでも頼られないのは結構辛い。

自分も力になりたいのに、何もしてあげられない無力感を味わうのは嫌なのだ。


「……別に、何もないで。勘違いちゃう?」


わざと突き放すようなキツイ言い方も、今だけはなんとも思わなかった。

ここで折れたら誰のためにもならないし、彼がまた抱え込んでしまう。


「もしかして、過去の両親に関係しているんですか?」


ピタっと、豚平さんの動きが止まった。

どうやら図星のようで、目は可哀想なくらい焦点が定まっていなかった。


「外交先で、何かされたんじゃないですか。……薬を飲まされたとか」


正直問い詰めるのは一番したくなかったが、優しくできなかった。

責めるべきは彼じゃなかったが、何も相談してくれないことに少なからず腹はたっていたらしい。


「……黙ってても、無駄だったんやな」
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