丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう
鈴嶺「じゃあ…ね…」
玄関で凱吾を見上げ、切なく微笑んだ鈴嶺。

凱吾「うん…また明日、仕事終わったら連絡する」
鈴嶺「うん…」

佐木「では、凱吾様。
失礼いたしました」
丁寧に頭を下げた、佐木。
鈴嶺も小さく手を振り、鈴嶺と佐木は出ていった。

ガシャンとドアが閉まり、凱吾はキッチンに向かい冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
ゴクゴクと喉を鳴らして飲み、換気扇をつけ煙草を吸い出した。

アイランドキッチンから、実和のプレゼントが見えた。

凱吾「うーん。鈴嶺を傷つける物はいらないんだよなぁー」
と呟くと、煙草を咥えたままプレゼントに向かう。

乱暴に紙袋を掴み、中を開ける。

手紙と万年筆が入っていた。

【凱吾くんへ
突然、ごめんね。
この手紙を凱吾くんが読んでるってことは、私はちゃんと告白することができたってことかな?
でも、私のことだから告白できてない可能性もあるので、ここで想いを伝えさせてください。
私は、凱吾くんが好きです。
中学生の時から意識しだして、バカみたいに10年経った今でも想ってました。
もし、凱吾くんに恋人がいないなら、私とのこと考えてみてくれませんか?
万年筆は遅いけど、バレンタインの贈り物です。
松平 実和】

きっと実和は10年後、五人に声をかけ久しぶりに六人で会うつもりだったのだろう。

そして、凱吾にこのバレンタインのプレゼントを渡す予定だったのだ。

しかし二ヶ月後のその日を待たずに、事故で亡くなったのだ。


凱吾は無表情でそれを読み、万年筆と手紙をまた乱暴に紙袋の中に突っ込んだ。

更にそれをごみ箱にガン!!と捨てたのだ。

そしてバスルームに向かった。



その頃、鈴嶺は自宅に帰り着いていた。

佐木「お嬢様、何か飲まれますか?」
鈴嶺「うん。紅茶をちょうだい」
佐木「はい、かしこまりました」

鈴嶺は窓の外を見つめていた。

佐木「お嬢様、紅茶お持ちしましたよ」
鈴嶺「うん。ありがとう」
一口、紅茶を含んだ。

鈴嶺「美味しい…」
佐木「良かった」
鈴嶺「ねぇ、佐木」
佐木「はい」
鈴嶺「佐木は、どう思う?」
佐木「何がでしょう?」

鈴嶺「凱くんのこと」

佐木「どう…とは?」
鈴嶺「結婚、反対?」
足元に跪いている佐木を、少し見下ろして言った。

佐木「いえ。反対なんかしません。
私は、お嬢様の味方ですよ」
そう言って、鈴嶺の手を優しく握った佐木。

鈴嶺「うん…!」
佐木「しかし…」
佐木が握った手に、力を入れる。

鈴嶺「え?」

佐木「私個人の意見としては…………反対です」

鈴嶺「え━━━━」

佐木「あの方程、恐ろしい人間はいませんから……」
真っ直ぐ、鈴嶺を見上げ言った。
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