丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう
そこに店員が、凱吾の席に向かい声をかける。

店員「メニューはお決まりですか?」
凱吾「は?」
店員「え?」
凱吾「まだ、連れが来てません」
そう言って、店員を見上げる凱吾。

店員「あ…す、すみません……」
何度も言うように、凱吾は決して睨み付けていない。
なのに、睨み付けているように相手は恐れを感じるのだ。
そのくらい凱吾は、冷たい目をしている。

そこにやっと、鈴嶺が現れた。
店員「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
鈴嶺「あ、いえ!待ち合わせ━━━━あ!向こうのお客さんの連れです!」

鈴嶺は、キョロキョロして凱吾を見つけるとニコッと微笑み店員に言った。
そして小走りで嬉しそうに凱吾の元に向かう。

鈴嶺「凱くん!お待たせ!ごめんね、道が混んでて……」
凱吾「ううん!大丈夫」
フワリと微笑む凱吾。

一気に凱吾を包む雰囲気が、柔らかくなった。
その変わりように、店員や周りの客が驚愕する。

鈴嶺「凱くん、頼んだ?」
凱吾「ううん」
鈴嶺「え?頼んでないの?ごめんね!お腹空いたよね!?早く頼も?」
凱吾「いいよ。鈴嶺の為ならいつまででも待つよ」

鈴嶺「どれがいいかな?」
凱吾「一緒に食べよ?
鈴嶺、一つは食べきれないだろ?」
鈴嶺「うん、ごめんね…」

凱吾「ううん。今ずっと見てたんだけど、ピザとパスタを半分ずつにしたらどうかな?」
鈴嶺「うん、そうする」

そして料理が来て、仲良くシャアする二人。

凱吾「はい、鈴嶺」
鈴嶺「ありがとう!こっちも、はい!」
和やかに時間が過ぎていく。

鈴嶺「すみません、お水のおかわりをお願いします」
店員が来て、お冷を注ぎに来る。
しかし、先程の凱吾の恐ろしさに手が震え、あろうことか手が滑りグラスを倒してしまう。

そして鈴嶺のスカートに水がかかってしまったのだ。
鈴嶺「ひゃぁっ!!?」
店員「あっ!!す、すみません!!」
凱吾「鈴嶺!!?」

凱吾はすぐにナフキンを取り、鈴嶺の足元に跪く。
鈴嶺は、テーブルの上を拭き取る。

しかしかなり大量に水がかかってしまい、なかなか間に合わない。
店員が布巾を持ってきて、それでなんとか拭きあげた。

店員「本当に、すみません!!」
鈴嶺「いえ、大丈夫ですよ!」
微笑む鈴嶺に、店員はホッと胸を撫で下ろした。

しかし、凱吾は納得いかない。

会計の為、レジに向かう。
凱吾「鈴嶺、外に出ててくれる?会計したら行くから」
鈴嶺の頭をポンポンと撫で微笑んだ、凱吾。
鈴嶺は頷き“車で待ってるね”と言って、外に出た。

店員「お会計、ご一緒でよろしいですか?」

凱吾「その前に、何か言うことないんですか?」
と、店員を見据えた。
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