丘の上の大きな桜の木の下で、また会おう
その日の晩。

鈴嶺と佐木は、杏樹の勤めるクラブに来ていた。

杏樹母「あら?鈴嶺ちゃんに、佐木さん!
いらっしゃい!」
杏樹の母親で、クラブママが接客する。

鈴嶺「おば様、杏ちゃんとお話したいんですが……」
杏樹母「………わかったわ。ここじゃなくて、向こうのVIP席に行きましょう」

鈴嶺の真剣な瞳に、杏樹の母親は鈴嶺と佐木をVIP席に誘導した。

杏樹母「ガラス張りだけど、ここなら誰にも話を聞かれることないわ。
今、杏樹を呼ぶわね!」


杏樹「鈴嶺、佐木さんも…いらっしゃいませ……」
少し緊張した面持ちで、杏樹が席についた。

鈴嶺「杏ちゃん」
杏樹「何、飲む?鈴嶺は、ウーロン茶よね。
佐木さんも、ウーロン茶がいいですね。
運転するから」

佐木「いえ、私は……」
杏樹「一杯くらい、付き合ってくださいよ!」

杏樹は二人の前に、ウーロン茶を置いた。

杏樹「乾杯!」
カチンと小さな音をさせ、杏樹がテーブルに置かれた鈴嶺と佐木のグラスに乾杯した。

鈴嶺「杏ちゃん!」

杏樹「……………志田さんのことでしょ?」

鈴嶺「うん」

杏樹「恋人よ。私の大切な人」

鈴嶺「やっぱ、そうなんだね」
杏樹「えぇ…」
鈴嶺「どうして、嘘ついたの?」

杏樹「鈴嶺に、軽蔑されたくなかったから」

鈴嶺「軽蔑?」

杏樹「彼ね━━━━━
結婚してるの。既婚者」

鈴嶺「え……」

杏樹「更に、赤王組ってゆうヤクザの若頭」

鈴嶺「嘘……じゃあ、杏ちゃん…」

杏樹「ヤクザの愛人」

鈴嶺「………」

杏樹「軽蔑…したよね……」

鈴嶺は、静かに涙を流していた。

杏樹「いいよ、軽蔑して。
わかってるから。でも……でもね、好きなの。
どうしようもなく……!
だから…それで鈴嶺が、もう私と絶交したいって言っても、私は受け入れる」


鈴嶺「………………杏ちゃん……幸せ?」


杏樹「え?」

鈴嶺「……………軽蔑…したよ…」

杏樹「そうよね。でも、私は幸せよ!」

鈴嶺「志田さんのこと、軽蔑した」

杏樹「え?鈴嶺?」

鈴嶺「志田さんはどうして、傷つけることするの?
好きな人を傷つけることをどうして?
杏ちゃん、幸せなわけないよね?
本当は、自分だけ見ててほしいって思ってるでしょ?
こんなの、おかしい!
二人はあんなに愛し合ってるのに、どうして志田さんは奥さんと別れないの?
奥さんのことも、傷つけてるじゃない!
私が“軽蔑した”って言ったのは、そうゆうことだよ」

鈴嶺は涙を流しながら、訴えるように言葉をぶつけた。
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