絢なすひとと
「よかったら連絡先を教えてもらえませんか」と彼が言った。
「今後ステップアップをお考えのときに、お役に立てるかもしれない。仕事柄、いろんな企業の方と接する機会があるんですけど。森崎さんのように前向きで聡明な女性を探している経営者は多いです。
まあそれは置いといても、相談に乗れることがあるかもしれないので」
生きている限りお金の話はつきものですから、と冗談とも本気ともつかない口調で付け加えた。
スマホを取り出そうとして、そうだと思い当たる。
未練がましく財布のポケットに入れておいた紙片を引っ張り出した。
「これ、前の会社の名刺なんです。会社が無くなってしまったから、メールアドレスとかはもう無効ですけど」
身上の証明をしたい思いもあった。
余白にプライベートの携帯番号を書き加えて、彼に渡した。
「森崎明里さん、とおっしゃるんですね」
名刺に目を落としてつぶやくと、丁寧にそれを彼の名刺入れに納める手つきが胸に残った。いささか残りすぎなのではないかと思うほどに。
とはいえいくら楽天的なわたしでも、まさか七尾さんから本当に連絡が来るとは思っていなかった。
なんといったって住む世界が違いすぎるから。
「今後ステップアップをお考えのときに、お役に立てるかもしれない。仕事柄、いろんな企業の方と接する機会があるんですけど。森崎さんのように前向きで聡明な女性を探している経営者は多いです。
まあそれは置いといても、相談に乗れることがあるかもしれないので」
生きている限りお金の話はつきものですから、と冗談とも本気ともつかない口調で付け加えた。
スマホを取り出そうとして、そうだと思い当たる。
未練がましく財布のポケットに入れておいた紙片を引っ張り出した。
「これ、前の会社の名刺なんです。会社が無くなってしまったから、メールアドレスとかはもう無効ですけど」
身上の証明をしたい思いもあった。
余白にプライベートの携帯番号を書き加えて、彼に渡した。
「森崎明里さん、とおっしゃるんですね」
名刺に目を落としてつぶやくと、丁寧にそれを彼の名刺入れに納める手つきが胸に残った。いささか残りすぎなのではないかと思うほどに。
とはいえいくら楽天的なわたしでも、まさか七尾さんから本当に連絡が来るとは思っていなかった。
なんといったって住む世界が違いすぎるから。