絢なすひとと
あの七尾さん、と慌てて言う。
「すごくありがたいお話なんですけど、買いかぶっていらっしゃるかと。わたしはその、これといった学歴も資格もなくて。
とても七尾さんがお付き合いのある企業の方たちに見合うような人材では…」

〈お言葉ですけど森崎さん、自分の価値を決めるのはご自身だけではないですよ。少なくとも僕は、あなたを見込んでいます。そんなにお時間取らせないので、お話だけでもできませんか〉

狐につままれたような、とはこういう心地なのか。
気づけば待ち合わせの日時が、すんなりと決められていた。

電話から二日後の仕事帰りに向かったのは、初めて彼と会ったときに二人で腰かけて話をした休憩コーナーのベンチだった。
〈今度は転ばないように気をつけます〉という彼の軽口に、クスッとしてしまった。

七尾さんと落ち合ったのち、彼の誘いでビル内にある、いわゆる和カフェに入った。
前からちょっと気になっていたお店だけど、ほうじ茶や抹茶のラテが一杯千円近くするので、パート勤めの身には敷居が高くて、入るのは初めてだった。
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