絢なすひとと
「そんな、誇れるような実績もないですし、なんというか会社自体無くなってしまって…」
つい俯きがちになってしまう。

「きっと素敵なプランを練られていたんだろうと思います。森崎さんが作ってくれた、あの卵ご飯。卵と白いご飯と海苔と醤油、それをアレンジするだけで、今流行りの
SNSにも載りそうな一品になるんだなと、感心したんです」

「…単純に好きなんだと思います。母がもともと楽しむことの達人みたいなところがあって。海苔巻きを巻き簾でハート形にしてくれたり。『ハートのお寿司だ』って子どもの頃、すごく嬉しかったんです。
そんな家庭だったから、自然と楽しいこと面白いことを見つけるようになったみたいで。学生のときは、学園祭の実行委員をやったりしてました。
その好きの延長で、前の会社に就職したんです」

道は途中で断ち切られてしまったけれど、あの会社で働けたことに後悔はなかった。

「単刀直入にお伝えしますが、森崎さん、僕の会社で働きませんか」

「で、ですから、それは無理です七尾さん」
誤解を解かなくてはという気持ちだった。
「わたしには金融のことなんて、なにも分かりません。恥ずかしながら学生時代、数学はいつも赤点スレスレでした。とてもじゃないけど…」
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