絢なすひとと
「そう言っていただけると、本当に誇らしいというか、ありがたいです」

「ほづみ屋さんがご実家なんですか」
目の前の、スーツがよく似合う男性とは、いまいち結びつかなかった。

「実家、というか父方の家業で。といってもうちの父親も、店のことには直接関わってないんです。父は銀行勤めなので、社外取締役に名前を連ねて、財務関係の補佐をしているくらいで」

七尾さんが金融の仕事に就いたのは、お父様譲りなんだろうか、とぼんやり思う。

「今まで店のことを取りしきっていたのは、父の従姉妹の季美子さんという方だったんです。それが、今年の初めに急逝してしまって…まだ還暦を過ぎたばかりの年齢で」
彼の声と表情がふと(かげ)る。

そのために七尾家とほづみ屋を取り巻く事態は、急転してしまったのだという。

季美子さんの夫である和文(かずふみ)さんは健在だが、仕入を主に担い、日々各地を飛び回っている。
夫婦の子どもたち、七尾さんにとっては又従兄弟(またいとこ)に当たる宗介(そうすけ)桜帆(さほ)の兄妹はまだ若年だ。
宗介がいずれ店を継ぐ、というのが親戚の暗黙の了解だったのが。
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