絢なすひとと
『司兄さんの力が必要なんだ。良いものを仕入れて誠心誠意売れば商いが成り立つっていう時代は終わったんだ。それでも商売を畳んでいく同業者がいるんだから。
俺は着物のことは分かっても、そろばん弾くのはさっぱりだ。
俺と桜帆(さほ)が店に立つから、兄さんに経営の舵取りをやってほしい。
ほづみ屋を、俺たちの代で終わらせるわけにいかないだろう』

膝詰めで宗介さんと桜帆さんに談判されて、七尾さんは「腹を(くく)るしかなかった」そうだ。

自分が呉服屋を継ぐことになるなんて、数ヶ月前までは想像すらしなかった、とつぶやいて「人生は株価以上に読みづらい」と冗談めかして付け加えた。

「ご事情は分かったんですけど…」とわたしは遠慮がちに口を開いた。
「わたしは着物のことも、金融と同じくらい無知です。とても呉服屋さんの仕事は務まらないと思います」

「自慢じゃないけど、僕も似たようなものです。継ぐからにはもちろん勉強はするとして。
だからこそ森崎さんのような人が必要なんです」

どういう意味だろう。
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