絢なすひとと
教室を終えて生徒さんたちを見送った後は、着物の手入れに取りかかる。

中には着物を持参する方もいるけれど、ほぼ店からの貸し出しだ。

一枚ずつ和室の畳に広げて、美幸先生と皺や汚れがないかチェックしてゆく。
薄汚れ程度なら、ベンジンを含ませた布で叩いて始末して、手に負えないものは悉皆(しっかい)に回す。

悉皆、というのは着物のメンテナンスを専門に扱う部門のことだ。自社で悉皆を抱えている、というのもほづみ屋の強みの一つだ。

手入れを終えた着物たちを衣紋(えもん)かけにかけて、陰干しする。
着物にまつわるこうした一連の作業も、少しずつ手際よくなってきた。

手に持った着物をずるずる床に引きずってしまうような不調法もなくなって。
一番の違いは、自分の中に着物というものへの愛情が生まれたことかもしれない。
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