絢なすひとと
その後、美幸先生と二人で本店に向かった。
わずかな距離だけど、奥州小紋にいぐさで編んだという籠バッグを手にした先生の姿に、ちらちらと人の目が寄せられるのを感じる。

日本橋という品格のある場所にあっても、彼女の着姿はやはり群を抜いているのだ。

店の二階にある事務所に戻る。
先生はこの後、個人のお宅に訪問してのレッスンがあるとのことで、ふたたび外出していった。

自分のデスクで日報をつけていると、奥の執務室から七尾さんが現れた。

「お疲れさま」

お疲れさまです、とデスクチェアにかけたまま、かるく頭を下げる。

ちょっと休憩どう、と声をかけてくれる。
自分が会社に誘ったという責任からか、こうしてなにかと気づかってくれるのが、ありがたいような申し訳ないような。

ふたりで近くのカフェに入った。

「紫陽花の単衣は、今の時季にぴったりだな」

褒めてもらえると、素直に嬉しい。
「美幸先生が、いつも帯回りのコーディネートまで丁寧に教えてくれるんです」

「爽やかな色合いが、森崎さんによく似合ってる」
そういう七尾さんはスーツ姿だ。
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