絢なすひとと
「まだコスプレ感覚が抜けないんです。気負わず着られるようになるには、場数を踏んでいかないと」

森崎さんは評判いいよ、とさらりと告げられる。
「飲みこみが早いし、好奇心いっぱいで質問してくれるから、初心にかえれるって」

「何も知らないだけなのに、そう言っていただけると。でも着物の世界の奥深さとか面白さとか、少しずつ分かるようになってきたと思います」

七尾さんの又従姉妹である桜帆(さほ)さんとの出会いも、ちょっとした衝撃だった。

店に出ていることが多いという宗介さんと桜帆さんの兄妹には、入社前に引き合わせてもらった。

いかにも人の良さそうな笑顔で「やあ、これは小紋を見立ててあげたくなる可愛らしいお嬢さんだな。いや失礼、職業病で」と話しかけてくれたのは宗介さんだ。

誰かを見ると、着物をコーディネートしたくなる、とにこやかに喋る宗介さんは、七尾さんいわく『着物を商うために生まれてきたような』人だという。

そんな宗介さんの隣に佇む桜帆さんの美しさに、わたしの目は吸い寄せられた。
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