絢なすひとと
翌日、デスクでパソコン画面をにらんでいると、「森崎さん、まだ残ってるの」と声をかけられた。
あ、社長、と顔を上げて反射的に口にする。
「社長はやめてほしいな」と七尾さんが口の端を曲げる。
「社外の人の前以外では名前でいいよ。役職にとらわれると、余計な壁ができてしまいそうだ」
パソコンのRTCに目をやると、八時を回ったところだった。
「企画書に夢中になってしまって…」
「根詰めすぎないで。焦ることはない」
ちらりとフロアを見回して、送っていくよと低めた声で告げた。
「お忙しいのに気を遣っていただいて、すみません」
シートベルトを締めながら口にする。
「今は名刺を配って回っている感じだな。織物商工会に顔を出したり、問屋さんを訪問したり。そんなもんだよ」
かるい口調で返ってくるけど、彼の肩には百名余りの従業員の生活がかかっているのだ。
老舗呉服屋の看板を守る、使命と重圧。
それに加えて、今は新店舗出店という大きなプロジェクトも抱えている。
あ、社長、と顔を上げて反射的に口にする。
「社長はやめてほしいな」と七尾さんが口の端を曲げる。
「社外の人の前以外では名前でいいよ。役職にとらわれると、余計な壁ができてしまいそうだ」
パソコンのRTCに目をやると、八時を回ったところだった。
「企画書に夢中になってしまって…」
「根詰めすぎないで。焦ることはない」
ちらりとフロアを見回して、送っていくよと低めた声で告げた。
「お忙しいのに気を遣っていただいて、すみません」
シートベルトを締めながら口にする。
「今は名刺を配って回っている感じだな。織物商工会に顔を出したり、問屋さんを訪問したり。そんなもんだよ」
かるい口調で返ってくるけど、彼の肩には百名余りの従業員の生活がかかっているのだ。
老舗呉服屋の看板を守る、使命と重圧。
それに加えて、今は新店舗出店という大きなプロジェクトも抱えている。