絢なすひとと
やんわりとしているようで、有無を言わせない意思がこめられた手のひらの熱。

「いけないことをするとお天道様が見てる、って子どもの頃言われたな」
言いながら彼がゆっくりとこちらに顔を向ける。

もう日は沈んでる、と暗い窓の外を一瞬だけ見やった。
「月だけが見てる」

七尾さんの手が腕が、わたしを抱き寄せる。
重なる唇をわたしは拒まなかった。

確かめるように触れた唇が、やがて求めるようにうごめいた。角度を変えて口づけが繰り返される。
吐息が交じり合い、車内の空気が濃密さを増す。

わたしはただ、身を任せるばかりだ。
二十六年生きてきて、恥ずかしながらこんなシチュエーションは初めてで。

身体が熱にうかされたように火照っている。
全身を流れる血が、熱量と速度を上げて、行き場を求めるようにドクドクと駆け巡っている。

キスをしただけで、こんなになってしまうなんて…
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