絢なすひとと
動く気になれなくて椅子に座りこんでいると、目の前のテーブルに投げ出したバッグから、かすかな振動音が響いてきた。
マナーモードにしたスマホだ。
慌ててバッグから探り出すと、はたして七尾さんからの着信が画面に表示されている。
もどかしく通話アイコンをタップする。
「もしもし」
〈ごめん〉
が彼の第一声だった。
謝罪なんてしないで、と反射的に思う。
「いえそんな…」どう返事をすればいいか分からなかった。
電話の向こうから、ヴーンとうなるようなかすかなノイズが聞こえる。車の走行音のようだ。どこか路肩に車を停めて電話をかけてくれたみたいだ。
〈地位利用するつもりはない〉
地位利用? と思いもよらない言葉に戸惑い、彼は社長なのだとあらためて気づく。
〈さっきは気持ちを抑えられなかった。イヤならそう言ってほしい〉
「イヤだなんて、そんなことはないです」
はっきりした声が出て、自分でもちょっとびっくりした。
「…社員として、ふさわしいことかは分かりません。ただ、わたしは七尾さんに惹かれています」
認めてしまった。自分にも彼にも。
マナーモードにしたスマホだ。
慌ててバッグから探り出すと、はたして七尾さんからの着信が画面に表示されている。
もどかしく通話アイコンをタップする。
「もしもし」
〈ごめん〉
が彼の第一声だった。
謝罪なんてしないで、と反射的に思う。
「いえそんな…」どう返事をすればいいか分からなかった。
電話の向こうから、ヴーンとうなるようなかすかなノイズが聞こえる。車の走行音のようだ。どこか路肩に車を停めて電話をかけてくれたみたいだ。
〈地位利用するつもりはない〉
地位利用? と思いもよらない言葉に戸惑い、彼は社長なのだとあらためて気づく。
〈さっきは気持ちを抑えられなかった。イヤならそう言ってほしい〉
「イヤだなんて、そんなことはないです」
はっきりした声が出て、自分でもちょっとびっくりした。
「…社員として、ふさわしいことかは分かりません。ただ、わたしは七尾さんに惹かれています」
認めてしまった。自分にも彼にも。