絢なすひとと
すみません、と男性は端整な顔に、驚きと恐縮がないまぜになったような表情を浮かべて、冷却パックの箱を手にした。

じゃあお大事に、とかなんとかつぶやいてその場を離れようとするわたしを、「あの」と相手が手を伸ばして呼び止める。
「ここまでして頂いて申し訳ないので、何かお礼をさせてください」

こちらを見上げる視線は、痛いくらいに真っ直ぐだ。

「そんな、いいですよ」と小さく手を振った。
「気持ちの問題というか」

「ならお礼をしたいのも、こちらの気持ちの問題です。受けてもらえませんか?」
唇の片端をくいと上げてみせる。

自信と、そしていたずらっぽさがのぞいた。
こちらもつられて、ちょっと笑ってしまった。

「座っているあいだに、靴紐を結び直しつつ、触ったり少し動かしたりして確かめてみたんですけど、骨に異常はなさそうだから。痛みがおさまったら歩けるようになると思うので」

「なら良かったです」
一安心だ。
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