絢なすひとと
いっとき沈黙が落ちる。

〈俺もだ〉
という彼の言葉。

“僕” が “俺” に変わった。きっと社長からひとりの男性に。
今、わたしたちは確かに一つの線を越えた。

〈始めたいんだ明里と。新しい関係を〉

七尾さん、と言いかけると、
〈ふたりの時は、名前で呼んでほしい〉
と告げられた。

「司さん」
初めて彼の名を呼んだ。

〈明里〉
と応える彼の声を、なぜか懐かしいもののように聞いた。
会いたいと思ってしまった。さっき別れたばかりなのに、明日会社で顔を合わせるというのに。

これが人を好きになる、恋をするということなんだ。
こんなにも深く強い想いを、わたしは初めて知った気がした。
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