絢なすひとと
手入れがすんだ着物を、一枚一枚畳紙(たとうし)に包んで、美幸先生と保管用の引き出しに収める。

ちなみに着付け教室で使われている着物は、“回りもの” が多いという。

「お客様とかお教室の生徒さんとか、そのお知り合いの方とかからちょくちょく相談を受けるんです」
と美幸先生。

着道楽だった母や祖母、あるいは親族の女性から着物を箪笥(たんす)ごと譲られたが、手に余っている、そんな話が舞い込むのだとか。
自分で着るには着丈も身幅も違いすぎる、柄や色合いが似合わない。処分するに忍びないけれど、貰ってくれるあてもない。

「なかにはしつけ糸が付いたままだったり、反物の状態だったりするものまであって。一度も袖を通したことがなくても、人様の手に渡ってしまうと、それは古着。
お店には出せませんけど、昔のものはどれも丁寧で質がいいから、こうしてお教室用に買い取りをさせていただいたり」
生徒さんには色んな着物に触れてほしい、と愛しげに絹地を撫でる。

着物は人と人を結ぶ、という美幸先生の言葉の意味を実感する日々だ。
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