絢なすひとと
なんとわたしもお店のスタッフの方から、何枚か着物や帯を譲っていただいたのだ。

「自分で着るには、色合いや柄が若くなりすぎちゃって。貰ってくれると助かるわ」と。

思えば洋服だとこんな経験はないから、これも着物の力のひとつなのかもしれない。
おかげで休日に自宅でも着付けの練習ができるようになった。

スタッフさんは「大したものじゃないけど」と謙遜されていたけど、さにあらず。
ほづみ屋に勤めている方が選んだだけあって、趣味のいいものばかりだ。

半衿(はんえり)をちくちく縫い付ける針仕事の腕も上達してきたし、帯締めの手入れも週末の日課になった。
着物が生活の一部になってきたのだ。
ようやくこれなら人前に出てもいいかなと思えるくらいになると、今度は仕事以外で着物で外出してみたくなってしまう。

そんなわたしの気持ちを読んだように、司さんが休日にホテルランチを提案してくれた。広い日本庭園で有名な都内のホテルだ。
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