絢なすひとと
「おかけになりませんか」
と彼が顔と視線の動きで、自分の隣をしめす。

素直に彼の隣に腰を下ろした。

「あやしいものじゃないので。ちなみに僕、こういうものです」
口にしながら、スーツの内ポケットから名刺入れを取り出した。

疑ってるわけじゃないけどな、と思いながら、なんの気なしに紙片を受け取って、記された肩書きにのけ反りそうになる。

『カーライル・ジャパン証券株式会社 総合経済研究所
  七尾(ななお) (つかさ)   』

…たしかドイツに拠点を置く、巨大な金融企業体で、そこの総合経済研究所ということは…とにかく目の前にいる若い男性は、予想をはるかに超えるエリートのようだ。

「すみません、わたしは名刺を持っていなくて」
今は引け目を感じてもしょうがないだろう。

ふむふむ、とそんなわたしをよそに彼、七尾さんはなにやらスマホを素早く操作している。
「打撲・アイシングで検索してみたんですけど、十五分から二十分くらいが効果的だそうです。少しお付き合いいただけませんか」
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