絢なすひとと
日々の仕事は、順調というか着実に進んでいる。

具体的には、着付け教室だけでなく、着付けの助手もさせてもらえるようになった。

着付け教室はその名の通り、学びの場だ。和やかに、ときに生徒さんと講師のかたが雑談しながら着付けを学ぶ。
講師の方に教えてもらい、ときに手を借りながら生徒さん自身が着付をするので、うまくいかなくてもご愛嬌だ。

着付けは、完璧に仕上げるのがこちらの役目なので、教室とは異なる緊張感があった。
必要な帯揚げや帯締めを美幸先生に手渡す。伊達締めを決めるときに(あわせ)を押さえたりと、先生と呼吸を合わせて着付けを行う。
凝った帯結びのときなど、先生のこめかみには汗がにじむ。華やかな着物姿の裏には、こうした地道な作業がある。

今日のお客様は、いつも美幸先生を指名される常連の方だ。
「久しぶりに会う友達と、銀座で観劇ってことになったの。銀座だったら先生に家に来ていただくよりここで着付けてもらったほうが、都合がいいじゃない」

話好きで愛想がいいご年配の女性で、着付けてもらう間の美幸先生とおしゃべりも楽しみのようだ。
手元に集中しながらも、適度に相槌を打つ先生の如才なさはさすがだった。
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