絢なすひとと
隠していたつもりなのに、やっぱりわたしの気持ちはダダ漏れだったんだろう。

司さんは家柄とそれに伴う立場のあるひとだ。それは分かっていたのに。
住む世界が違うのだから、お付き合いできただけでも奇跡みたいなものだ。
ブライダル業界で働いていたから、結婚は当人同士の気持ちだけではない。家と家との結びつきでもあると、目の当たりにしてきたというのに。

それでもわたしはいつの間にか、その先まで夢見てしまっていたのか…

『桜帆ちゃんと似合いの取り合わせねえ』

その言葉が録音でもしてしまったみたいに、繰り返し耳元で再生される。
誰が見たってそうなんだ…
わたしみたいな普通のサラリーマン家庭の出身と、老舗呉服屋の跡取りとでは、『似合いの取り合わせね』とはならないか。

おまけに桜帆さんはあんなに美しい方だ。

着物に、訪問着、付け下げ、色留袖、など格が決まっているように、ひとにも格があるということか———
思考が昏いほうへ、低いほうへと流れていってしまうのを止められない。
それはぐるぐる渦を巻いて、その中へ飲みこまれてしまいそうだ。
< 56 / 71 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop