絢なすひとと
帰宅後、ひとりリビングでぼんやりしていても、頭を占めるのは昼間のお客様の言葉ばかりだ。
夢見心地だったところに現実を突きつけられてしまった。

…そういえば『二つの家が一つになるわけだし』というのはどういう意味だろう。
司さんのお父様と季美子さんが従姉妹だから、司さんと桜帆さんは又従姉妹ということになるんだろうけど。
親族経営の老舗に対して、二つの家、という言い回しがどこか引っかかった。

そんな愚にもつかないことまで、ただ考えてしまうのだ。
思考をこねくり回すことで、悩みから目を()らそうとしているみたいに。

かすかな振動音が静かな部屋に響く。耳の錯覚じゃない。
充電器に差し込んだスマホが着信を告げている。

予感、あるいは期待とともに手にとると、そこには自分の心を占めるひとの名があった。

「もしもし?」
声が上ずってしまったけど、思えば司さんの電話に出るときはいつもそうかもしれない。

〈明里?〉
司さんの声は、常と変わらず落ち着いている。
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