絢なすひとと
あ、はい、とうなずいてしまった。
この言動が如才なさは、やはりエリートと呼ばれる人ならではだろうか。
それでもときに思いがけず転んだりするわけだから、やっぱり同じ人間なんだと妙なところで親近感をおぼえる。

七尾さんは瞬間冷却パックを、パンと叩いて振って反応させると、膝に押し当てた。

「お名前を伺っていいですか?」
こちらに顔を向けて聞いてくる。

森崎(もりさき)、と申します」
下の名前まで名乗らなくていいだろう。なにかの面接じゃないんだから。

「お仕事帰りですか」

「そうです。このビルの地下フロアにある食料品店で働いているんです。ちょうど仕事あがりで」

なるほど、とつぶやいて「先ほどは助かりました。それに冷却剤も」とあらためて礼を言われる。

「当たり前のことをしただけなので。大事がないといいんですけど」

「打った瞬間は、脳天に突き抜けるくらい痛かったけど、だいぶ落ち着いてきました」
思い出したのか、彼が少し顔をしかめる。
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