沈黙の戦い〜凛々しい棋士のギャップ〜
 憂鬱な気持ちのまま、仕事を終えて帰宅する。今日は、何もする気がしない。

 玄関を開けると、なぜか明るい。不思議に思いながらもリビングに向かうと物音が聞こえてきた。

 静かに扉を開けると、キッチンで鼻歌を歌いながら鍋を混ぜている匠がいた。もう帰っていると思っていた。嬉しいサプライズに気持ちが浮上する。

「た、ただいま〜」

「あっ美羽おかえり〜。音に気づかなかった」

「もう帰ったと思ってた……」

「いたら迷惑?」急にシュンとする姿に、垂れた耳とシッポが見えた気がした。

「迷惑なんて。嬉しいよ。元気出た」

「元気なかったの?何かあった?」

 美羽はドキッとする。無意識に発した言葉を気にしてくれる優しい匠は、年下とは思えない。

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