沈黙の戦い〜凛々しい棋士のギャップ〜
 持ち時間は若干匠の方が多く使っているが、特に気にするほどではない。

 午後からも気持ちを切り替え対局するのだが…

 一日目終了間際に、打った一手が……。

 打って気づいたが手遅れだ。相手も匠のミスが信じられないのか、目を見開いている。

 元に戻すことは出来ない……。

「負けました……」言葉と同時に深くお辞儀した。

 シンと静まり返る会場。相手も一礼する。

「本日は、失礼させていただいても?」

 この一言を発するのが精一杯だった。

「あ、ああ」

 匠からの『感想戦』辞退の珍しい申し出だが、相手も悔しさがわかる故に頷いてくれた。

 最後まで凛々しい姿の匠は、スクっと立ち上がりお辞儀して会場を後にした。

 匠が初めて『感想戦』を辞退し、初めての大きな挫折を味わった日だった。



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