沈黙の戦い〜凛々しい棋士のギャップ〜

　泣き叫びたいくらいの悔しさを胸に会場を出た。

　匠の気持ちを代弁するかのように、シトシトと雨が降っていた。そんな中、傘もささずに歩き出す。春になり、気温は少し暖かくなったとはいえ、まだまだ朝晩は寒さが残る。

　だが今の匠には、冷たさも寒さも感じない。心の中は真っ暗だ。

　歩いて帰れる距離ではないが、ひたすら歩みを進める。

　どれくらい歩いただろう。

　雨に濡れ歩き続けた事で、少し冷静になり周りを見渡すが、どこか全くわからない。ふと視線の先に、小さな公園が見えた。無意識に足が公園に向かい、雨の中ベンチに腰掛けた。

　そして、街灯がある小さな公園のベンチにひとり座り、目を閉じ最後の一手を思い出す。あり得ないミス。自分自身がしたことだが、未だに疑問に思う。

　なぜ……。

　時間を戻したい……。