よあけまえのキミへ
「殿って、みこちんのことめっちゃ可愛がってはりますよねぇ」
「なぜ料理を見てそんな言葉が出るのだ」
忙しく箸を動かしながら、ゆきちゃんはにやにやと笑って雨京さんを見る。
「だってほら、このかまぼこ、ねこちゃんの形に切ってあるし。こっちのにんじんは、うさぎちゃん。完全におなごウケを意識してはる! いや、みこちんウケやね、この場合」
「わ、ほんとだー! うさぎちゃん、かわいい!」
小鉢の中でちょこんと顔をだす可愛らしい形のにんじんを箸でつまみ上げて、ゆきちゃんと笑いあう。
すごいなぁ雨京さん。
こんなふうに、人それぞれに合った料理をいつも考えて出してるんだ。
「静かに食べなさい」
きゃっきゃとはしゃぎながら小鉢をつつく私たちを一瞥して、雨京さんは顔色ひとつ変えずにもくもくと箸を動かす。
「おいしいです、雨京さん! 忙しいはずなのに、こんなに豪勢な朝餉を作ってくださって、ありがとうございますっ」
「話しておかねばならない事があるのでな、この後少し時間をもらおう」
「あ、はいっ! わかりました……」
な、なんのことだろう。
まさか、昨夜のことがバレた……!?
涼しい顔で食事を続ける雨京さんの正面で、私とゆきちゃんは冷や汗をたらしながら顔を見合わせた。