よあけまえのキミへ
「いや、実は最近大事なもんを落としちまってよぉ……初めて仲間と撮ったほとがらなんだよ……ここいらでなくしたんじゃねぇかと思って探してんだが……」

 心底困り果てた様子で相手が吐き捨てたその一言に、ドクンと大きく体の中心が脈打つ。

 この人は――

 まさか、あの写真に写っていた人物?
 はっとして浪士さんを直視する。
 じっと、食い入るようにまじまじと見つめ返す。

「おいおい、何だよ……」

 私の反応が予想外だったのか、若干口元を引きつらせながら彼は一歩後退した。


(似てない……)

 写真の中の三人と目の前の顔を照らし合わせてみるものの、どうにも合致しない。
 一番近いのは、右端に写っていたやる気のなさそうなお兄さんで、髪の感じやほつれた着物の具合など類似点はいくつか挙げられるものの、何かが決定的に違う気がするのだ。

「ちなみにどんな仲間と、いつ、何人で撮った写真ですか?」

「はぁん? 何だよ、聞いてどうすんだよ」

「いえ、ちょっと参考にと思って……」

 相手は私からの質問を受け、いぶかしげな顔で首を捻っている。
 確かにちょっと直接的すぎる問いかけだったかもしれない……。

「おめぇ、もしかして何か知ってんじゃねぇの? なぁ……」

「じゃあ、何人で撮ったのかだけ教えてくださいっ!」

 的を射ない問答に苛立ちを隠さない相手の言葉を遮るように、私は切羽詰まった声でもう一押しする。
 もし答えてくれて、そしてそれが私の持つ写真と同じ数字だったら――正直に話そう。

「……三人だよ。それがどうかしたかよ?」

「三人……!!」

 ――同じだ。

 私は、未だ整理がつかずにぐちゃぐちゃと混乱したままの頭の中を一旦白紙にすべく深く息を吸い込むと、覚悟を決めて懐から例の写真を取りだした。

「もしかして、これですか?」

 差しだした写真に視線を向けるなり、浪士さんは大きく目を見開いて声を上げる。

「うおおおおおっ!! これだっ! これ……!! てかおめぇ、持ってんじゃねぇかっ!! 早く出しやがれバカヤローッ!」

 悪態をつきながらも内心は安堵する気持ちが勝っているようで、浪士さんの表情からはみるみる怒りの色が消えていく。
 よほどあちこち探し回っていたのだろう。
 その感動たるや並のものではないらしく、じわりと目に涙まで浮かべている。

 ――こうして見ると、少しは怖さも和らぐな。

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