よあけまえのキミへ
第五話 転機
(遅くなっちゃったから、かすみさん心配してるかな……)
無事にいずみ屋の前までたどり着き、ほっと一息ついて足を止める。
乱れた呼吸をととのえながら軒先に竿を立てかけ、戸口に立つと――店の中から何やら言い争う声が聞こえてくる。
「いい加減にしろよてめえらッッ!!」
それは、店の外にまでビリビリと響いてくるような肚の底からの怒鳴り声で、戸口にかけていた私の手を引っ込ませるには充分な迫力があった。
(一体何があったんだろう……)
中に入るのを躊躇し、ごくりと息をのむ。
そして、昨夜のかすみさんとの会話を思い出す――。
ここ最近、がらの悪いお客さんが増えていること。
その人達が騒ぎを起こすことも少なくないということ……。
(もしかして、また乱闘でも……?)
ばくばくと叩きつけるように警戒音をならす胸をトンと叩き、私は大きく息を吸い込む。
中にはかすみさんがいるはずだ。助けに行かなきゃ……!
意を決して戸を開き、のれんをくぐる。