よあけまえのキミへ
「……そういうわけで、田中さんのお顔が写真と違うんじゃないかとモメた結果、明日またあらためてお返しすることになったんですが……」
「なるほど、確かにケンは写り方がおかしいとぼやいていたな……話を聞くかぎり信憑性はあるが、証拠は? 手元にあれば写真を見せてくれないか」
いくらか納得してくれた様子でうなずきながら、こちらに歩み寄ってくる中岡さん。
「……いつまで座っているつもりだ?」
ぺたりと土に足をつけてその場にへたり込んだままの私を、あきれたように見下ろして中岡さんは軽く息をつく。
「あ、ごめんなさい……!」
指摘されてようやく気づく。
大切な話をしているというのに、この姿勢はあまりにも失礼だ……!
あわてて腰を上げようとするものの、極度の緊張と興奮で腰が抜けたのか、力を入れようにもふにゃりと体が折れて、うまく立ち上がれない。
「そのままでは着物が汚れるぞ。ほら、ゆっくり立て」
中岡さんはそう言って私の隣で膝を折ると、そっと肩を貸して立ち上がらせてくれる。
膝は相変わらずがくがくと頼りなく震えているけれど、体を支えられてなんとか土間を上がった先の畳の上に腰を下ろすことができた。
「ありがとうございます……!」
「年頃の女がああやって地べたに座り込んでいては見苦しいからな。それで、写真の話なんだが……」
「あ、はい……」
優しい人だと一瞬ときめいたものの、すぐさま盛大に突き放され、がくりと肩を落とす。
――そして懐から例の写真を取り出すと、目の前の中岡さんに向けてそっと差し出す。
「この写真です。真ん中が中岡さんですよね?」
「これは……そうだな、確かに俺だ」
明かりもない薄闇の中、写真を手に取ってじっと目をこらし、中岡さんはうなずいた。
それを見て、私はほっと胸をなでおろす。
人違いじゃなくて本当に良かった。
「これは私から、田中さんに返しておきますね」
「預けてもらえれば、俺からケンに渡しておくが……」
「そうですか……? それだと明日の夕方までに田中さんに返しておいてもらわないと行き違いになっちゃうと思いますけど、大丈夫でしょうか」
もしそうなって、私が写真を持ってないと言ったら田中さんは物凄く怒る気がする。
「いや、夕方までに会えるかは分からんな……この件はお前に任せた方が良さそうだ。すまんが、頼む」
「はいっ! お任せください!」
どんと胸を叩いて返事をする。
それを見て中岡さんはかすかに目を細めて小さくうなずきながら、私に写真を返してくれた。