よあけまえのキミへ
「……よし、片付け完了!」
あれから絵道具の山を掘り返しながら、にらみあうこと数刻。
そのほとんどを厳重に包み押し入れに収納することで、部屋の中は驚くほどすっきりと片付いた。
結局、手元に残したのは父が愛用していた筆と、未完の絵数枚だけだ。
綺麗な細工が彫りこんである短刀や、立派な白木の箱に入った絵筆一式などなど、素人目にも『こいつは他とはちょっと違いますよ』感がビシバシ伝わってくるお宝も数点あった。
埃まみれにしておくのは忍びないから、それもまとめてかぐら屋に持っていこう。
雨京さんは刀や骨董が好きだから、どれくらいの価値があるものか教えてくれるかもしれない。
「この部屋とも、しばらくお別れかぁ」
四方に積み重なっていた荷物が消え、妙に広々として見える部屋の中をぐるりと見渡す。
思えば、いずみ屋との付き合いも長くなるな――。
――今は亡きかすみさんの父、晴之助(はるのすけ)さんが隠居したのち、趣味の絵画収集を兼ねて道楽ではじめたのがこのいずみ屋だ。
晴之助さんの生前は、かすみさんと親子二人で仲良く店を切り盛りしていた。
かつては売れない絵師達に格安で食事を出したり二階部分を住まいとして提供したりもしており、朝から晩まで店内は、若い描き手たちの熱で盛り上がっていた。
そんな晴之助さんは私の父の絵をたいそう気に入ってくれていて、新作の完成が待ちきれず、一日おきに当時私たち親子が住んでいた長屋まで訪ねてくるほどの熱心さだった。
そうしていつしか家ぐるみの付き合いになり、いずみ屋に入り浸るようになった私たち親子は、晴之助さんに勧められるがまま、この店の二階に部屋を借りて住むようになった。
それが、今私がいるこの部屋だ。
――思えばほんとうに長い付き合いになる。
晴之助さんやかすみさんと出会ってもう十年近く経つはずだ。
昔は毎晩賑やかに、二組の親子が仲良く向かい合ってご飯を食べていた。
忘れられない、楽しかった日々。
晴之助さんも私の父も亡くなって、今はかすみさんと二人きりだけど、寂しくはない。
むしろ、一人じゃない現実に感謝だ。
私にはまだ、家族と呼べる相手がいる――それがどれだけ心強いことか。
かぐら屋では、かすみさんや雨京さんの力になれるように精一杯頑張らなきゃ。