よあけまえのキミへ
「さぁて中に入ろか。部屋は二階や、空いとるとこ好きに使ってな。それにしてもえらい荷物やなぁ……一晩泊まるだけやのに。ほれ、そっちの大きいほう、持ったるわ」
ご主人がそう言って、かかえていた風呂敷包みを持ってくれる。
「ありがとうございます……! お世話になります!」
「疲れたやろ、今夜はゆっくり休み」
疲れと緊張で少し固くなっている私をねぎらうようにぽんと背をたたいて、女将さんが宿の中へと案内してくれる。
明かりに照らされてほんのりとあたたかい室内に足を踏み入れると、いくらか気持ちがときほぐれたのか、思わず大きくため息がもれた。
(かすみさん、はやく帰ってきてね――)