よあけまえのキミへ
第十一話 悪評
夕餉をご馳走になったあと二階へ案内された私は、いずみ屋のちょうど正面にあたる部屋に泊めてもらうことになった。
見晴らしもよく、向かいの様子をうかがいながら一晩を過ごすにはもってこいの部屋だ。
「よし、今夜は寝ずに番をしなきゃ!」
ご主人に運んでもらった荷物を部屋のすみに押しやり、風呂敷の中から薄桃色の巾着を取り出す。
巾着の中には小さく三角に折ってふくらんだ懐紙がいくつか入っている。
それを三つほどつかんで懐に入れる――中身は金平糖だ。
父の好物で、「これをなめてりゃ眠気が飛ぶ」とよく一夜漬けのお供にしていたのを思い出す。
窓際にそっと腰かけ外の様子を見る。
見下ろした先には、上から木材をかぶせて厳重に釘で打ち付けられたいずみ屋の表戸がある。
侵入は難しいはずだ。
勝手口もガチガチに打ち付けられているそうだし、これをまた壊して入り口を作ろうとすれば、付近にもその音が響きわたるだろう。
ここまでの騒ぎになった以上、いずみ屋はしばらく人の出入りを厳しく監視されるようになるはずだ。
新選組はもちろん、ご近所さんたちからも――。
そう考えると深門さんたちがいずみ屋に近づくのは簡単じゃない。
新選組に顔を知られているんだから、京にとどまること自体が命がけと言ってもいい。
(……それでもまた戻ってくるようなことがあるとすれば、店内にまだ何か隠している時かな)
小さくため息をついて、取り出した金平糖をひとつ口にふくむ。
今夜は何事も起こりませんように……。