よあけまえのキミへ
「――あ、新選組」
うなだれながら窓際に戻ると、巡回中らしい新選組の隊士さんたちがぞろぞろと大人数でいずみ屋を囲んでいるところだった。
そういえば今夜から巡回に来てくれると言っていたっけ。
見つからないように窓を少しあけて彼らの働きを見守る。
先頭で指揮をとっているのは永倉さんとは違う人のようだ。
けわしい表情で何やらぽつぽつと会話を交わす一団は、修理された戸の周囲をぐるりと周り、店内の物音にきき耳をたてる。
そして念入りに付近の路地を調べたあと、ザッと列を組んで風のように走り去って行った。
戸締まりはきちんとされているし、まわりには人の気配もないし、思っていたよりも時間はかからなかったみたいだ。
(何はともあれ今のところ異状はなし、か)
ふぅと一息ついて窓際に腰かける。
暗く寂しい路地に冷たい風が吹き抜けていく。
いつもいずみ屋二階の窓からこちら側を眺めていたけれど、今夜は逆だ。
狭い小路を隔てて正面からいずみ屋を見ている。
すごく、遠い。
私の帰る家が。自分の部屋が。
(――帰りたい)
急に心細くなって、自分を抱きしめるようにぎゅっと肩を抱く。
さっきのおかみさんの言葉が脳裏に焼きついて離れない。
『かすみちゃんは戻って来れるんかねぇ』
かすみさんも、さっきの私と同じような尋問を新選組から受けているかもしれない。
『浪士に加担しているんじゃないか』と。
だとしたら――。
どうなるんだろう。
帰って来れるのかな?
本当のことを話しても信じてもらえなかったらどうしよう……。
とにかく明日になってみなきゃ何も分からない。
明日には雨京さんに会えるはずだから、もしかすみさんの帰りが遅ければ、先にかぐら屋を訪ねてみよう――。
頭の中で、次々とわいてくる問題を片付けていく。
とはいっても私一人の力ではどうしようもないものばかりで、ほとんどは『かすみさんが帰って来てから話し合おう』という結論にたどり着く。
真剣に深門さんたちをつかまえる算段を練ろうと考えをめぐらせると、賢くはない私の頭は、すぐに悲鳴を上げて沸騰しそうになった。
静まり返った部屋の片隅でたまりにたまった疲労に根負けした私は、指先でつまんだ金平糖を畳の上に落とし、まどろみの中に落ちていった――。