よあけまえのキミへ
「そっか。あんなことがあった以上、そう考えるのも仕方ないね」
「……」
「でもね、君のことを助けようと必死になって、きっと今でも心から心配している浪士たちを知ってるよ」
「それって……」
はっとして、伏せていた顔を上げた。
涙で濡れた両目をぬぐうこともせずに、長岡さんを直視する。
「君のことを酢屋まで運んでくれた三人だよ。彼らにも二度と近づきたくないと思うかな?」
「それは……」
中岡さん、田中さん、大橋さん。
火事の中、火傷を負ってまでかすみさんを探しにいずみ屋に飛び込んでくれて。
周りから何を言われても耳を貸さずに、消火を手伝ってくれた。
そして不安な私のそばで、ずっと励ましながら見守っていてくれた。
その上こうしてお医者さまのもとにも運んでくれて――まさに命の恩人だ。
……けれど。
「すごく感謝しています……だけど私、あの人たちのこと何も知らなくて……そんな状態でこのまま付き合いを続けてもいいのかなって……」
不安でもある。
彼らは悪い人じゃないとは思うけれど、その素性をまるで知らない。
陸奥さんからも、もう彼らには関わるなと言われてしまった。
悲しいけど、住む世界が違うんじゃないかと薄々感じている。
「あの人たちは、罪もない町人を苦しめるようなことをするような人間じゃないよ。藩を出て京にいるのは、彼らの志を遂げるためさ」
「こころざし……?」
「そう。今はこんな暗いゴタゴタしたご時世だからさ、この国がよくなるように何かしたいって思いながら活動してるってこと」
「それって、どんなことをしてるんでしょうか……」
「まぁ、そのへんはヒミツなんだけどね」
「そんなぁ……」
肝心なところではぐらかされて、がくりと肩を落とす。
そんな私の様子を見た長岡さんは、くすりと笑って言葉をつないだ。
「でもね、成し遂げたあとは胸を張って報告できることだから。あと一、二年待ってあげて。そしたら彼らの口から教えてくれるよ。あの時あんなことを頑張ってたんだってね」
「本当ですか……? 後ろめたいことはしてないですか?」
「してないしてない。彼らなりの正義を貫いて生きているよ。保証する」
「そう……ですか」
納得できる答えではないけれど、いくらかほっとする。
やっぱり私は、彼らを信じたいんだ。
周りに何と言われようと、あの人たちは私の恩人だもの。