よあけまえのキミへ

「――だってさ。ケンくんのは簡潔だけど、字がすごい気合い入ってるねぇ」

 長岡さんは三枚の文をそっと畳の上に並べて見比べながら、ふっと笑みを浮かべる。

 私は、その言葉に返事を返すことができなかった。
 彼らのまっすぐで素直な気持ちを耳にしながら、顔も上げられないほどにぼろぼろと涙がこぼれ落ちてきたからだ。

 だめだ、泣き止もうと思ってもとまらない。

 三人が、こんなにも私やかすみさんのことを気にかけていてくれたなんて――。

 少しでも彼らとのつながりを断つべきか迷っていた自分を、思い切り殴りつけてやりたい気分だ。


 情けなく鼻水をすすりながら涙をぬぐい、ぐしゃぐしゃになった顔で長岡さんのほうを見上げる。

「三人とも、決着をつけるとかカタキをうつとか……水瀬たちと戦うつもりなんでしょうか?」

「戦うかどうかは別にして、まぁ追いかけ続けるだろうね。盗まれたものもあるようだし」

「そう……ですよね」

 まだ何も終わってはいないんだ。
 結局、水瀬たちには逃げられてしまったのだから。

 中岡さんたちの目的は、奴らを捕まえて盗まれたものを取り返すこと――。
 文によれば、彼らはそれと並行してかすみさんの行方も探してくれるようだ。


「三人とも、本当に君のことを心配していたよ。そして、君やいずみ屋を守れなかったことを悔いていた。今後の不安もたくさんあると思うけど、水瀬たちのことについては彼らに任せておくといい」

「……はい。私もできる限り、かすみさんの行方について調べてみます。もしかしたら、かぐら屋に戻っているかも……」

「うん。ただ、無理だけはしないでね。何よりまずは元気出して! 暗い顔でいると、なかなか傷も癒えないよ」

 長岡さんは私の頬をつんと優しくつついて、やわらかく微笑んだ。
 一通り不安を吐き出し、そして三人の文に励まされた私は、つられて小さく笑みがこぼれる。


「長岡さん、ありがとうございます」

「いやいや、自分は何もしてないよ。それより、中岡さんたちに何か伝言はない?」

「伝言――ですか。そうだなぁ……言いたいことはたくさんありますけど、とりあえず、ありがとうと、また会いましょうって伝えていただければ」

「了解。伝えておくね」

 ふたたび指でマル印を作る長岡さんに、深々と頭を下げる。

 またあの三人に会って話をしたい。
 いや、会わなきゃ。
 これっきりで終わらせるなんて絶対にいやだ。
 ちゃんと直接会って、お礼を言うんだ。


 決意をこめて、ぎゅっと布団をにぎりしめる。

 すると、その脇で思い出したように長岡さんが手を叩いた。


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