よあけまえのキミへ

「さてと、そろそろ雨京さんが来るころやな。ちょっと様子見てくるわ」

「あ、うん。そうだね……私、どこか変なとこないかな? 髪とか、ぐしゃぐしゃかも……」

「ほんならうちの櫛、貸したるよ。なんや怖いひとらしいけど、力抜いてな」

 懐から丸櫛を取り出して私に手渡すと、ゆきちゃんは立ち上がって廊下の向こうへと消えて行った。


 雨京さん。
 初対面の人はほとんどが厳格で近寄りがたく怖いひとだと感じるそうだけど、私は何度も会っているし、父を交えてよく神楽木家と食事をしたりお芝居を見に行ったりしていたから苦手意識はない。

 刻限をきっちりと守る人だから、今夜も約束の時刻より前に顔を見せてくれるはずだ。


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