よあけまえのキミへ
「――すまない、こんな時分に。久しぶりだな」
すとんと綺麗に着地して、目の前に現れたのは陸奥さんだった。
「お久しぶりです! また会えて嬉しいですっ……!」
静かに袴のすそをはたく陸奥さんに、小走りで駆けよる。
まさかこんなにすんなりと会えるなんて!
思わずその手をとってぶんぶんと上下にふり回すと、陸奥さんはやわらかく苦笑した。
あまり嫌がっている様子は感じない。
きっと、むこうも無事に会えてほっとしているんだろう。
「あれから大変だったみたいだな。あの日、もう少しくわしくお前の話を聞いていれば、助けになれたかもしれなかったんだが……」
「そんな、気にしないでください! 陸奥さんたちまでこっちの問題に巻きこめませんから……!」
予想外の言葉に私は大きく首をふりながら、内心はとても嬉しかった。
「おっしゃ、オレも来たぜ天野!」
するりとこちらに降り立った田中さんは、右手をこちらに差しだしてきた。
「あ、はい! 田中さんもお久しぶりです。お元気でしたか?」
「おうよ、元気だ! そっちの傷の具合はどうだ?」
「順調に回復してます」
心配はいらないと、笑顔で大きく頷いてみせる。
「そいつは良かった! ほれ、手!」
田中さんは、宙に差しだしたまま居心地の悪そうな右手を、私の胸元まで近づけた。
「手ぇ、握ったったら? みこちん」
そばで黙って見ていたゆきちゃんが、笑いをこらえながら私の肩をたたく。
「あ、そういうことなんですか……?」
握ったままでいた陸奥さんの手をほどいて田中さんのほうを見ると、彼はすねたような照れたような、なんとも言えない表情で頬をかいた。
「むっちゃんにやったならオレにもやるだろ、フツー」
「でも田中さん、さっき手に唾をぺっぺってしてました……」
「何だよその、汚物を見るような目はよぉ……!! もういい、ぱぱっと話だけして帰るぜ!」
無意識に声が大きくなる田中さんの脛に陸奥さんが強めに蹴りをいれると、首ねっこをつかまれた猫のような表情で、田中さんはその場に腰をおろした。
それに合わせて残りの三人も小さく向かい合うように座り込む。
「とにかく、無事に会えてよかったです」
「おう、ゆきちゃんにも礼を言っとかねえとな!」
「そうだな、助かった」
田中さんと陸奥さんは、ゆきちゃんに向かって頭を下げる。
「礼なんていりませんって! うちは人が来んか見張っとくから、三人でゆっくり話してな」
そう言い残すとゆきちゃんは私たちから少し距離をおき、蔵からわずかに離れた庭木の茂みに身をかくす。
話がしやすいように気をつかってくれてるのかな。
ありがとう、ゆきちゃん。