よあけまえのキミへ

「ふぅ……」

 はりつめていた糸が切れたように大きく息をつき、私は蔵の壁に背をあずけて、ずるずるとその場に沈んだ。


 ――まさか、本当に会えちゃうなんて。

 一人になって一息ついた今、なぜだか私は笑っていた。
 きつい話も聞いたけど、おかげでゆるみそうだった気持ちが引き締まった。
 頭の中のモヤが晴れた気分だ。

 危険をおかしてまで、わざわざ私に会いにきてくれた二人に感謝しなきゃ。
 大橋さんも、かすみさんを探し回ってくれている。
 坂本さんも、私のことを心配してくれている。

 すごく、嬉しかった。
 あの人たちとまた笑って会えるように、失ったものを取り返さなきゃいけない。
 そのために、自分にできることを探すんだ。

 少しだけ熱の残る真っ暗な蔵の裏手で、私は一人ぎゅっと拳をにぎりしめた。


「さっきは何話してたーん? 長かったなぁ、二人から迫られてたん?」

「何言ってるの、ゆきちゃん! 寝ぼけすぎだよ! さぁ、お布団入ろうね」

 あのあと私は、庭木の茂みに突っ伏して爆睡するゆきちゃんを発見し、よろよろと支えながら離れの自室に戻ってきた。
 もう、くたくただ。

「みこちん、二人に会えてよかったなぁ~」

「うん! ゆきちゃんが協力してくれたおかげだよ、本当にありがとね」

「くか――……」

 またしても寝落ち!
 わざわざ一人、離れたところで待ってくれていたんだから、眠くなるのも当たり前か。

 気持ちよさそうに寝息を立てるゆきちゃんに向かって、もう一度心の中でありがとうとつぶやく。
 なんだか、ほっとする寝顔だな。
 冷えないようにちゃんと布団をかけてあげなきゃ。


< 98 / 105 >

この作品をシェア

pagetop