君と恋をするための三か条
部屋に戻ると、麗花はスープを完食していたけれど、硬い椅子に座ったままだ。
ソファがあるんだし、もっと寛いでいればいいものを。

「麗花」

彼女の背に声をかけると、びくりと肩を震わせて振り返る。
俺が悪いことしているみたいだな…。

「あ、新っ、スープご馳走様。すごいのね、短時間でこんなに美味しいもの作れるなんて」

ぎこちない笑みを浮かべる麗花に苦笑する。
それから、密かな思惑を口にした。

「大したものじゃないし、なんなら夕飯も作ろうと思うんだけどどう?」

「そ、そんな、悪いよ」

「うーん、でもまだまだ雨強くなるみたいなんだよね。 料理人の練習に付き合うと思ってさ」

胸の辺りで手を合わせ、お願い、と念を押す。

「シェフのくせに、練習なんて必要ないでしょうに…」

「向上心を持ち続けることは大事だろ?」

「そりゃ、そうでしょうけど…」

麗花は苦渋の決断と言った感じでしばらく考え込み、最後には頷いてくれた。

「…分かったわ。練習に付き合うだけよ」

開き直ったような笑顔に、俺はとびきり柔らかく微笑んだ。

「ありがとう! 助かるよ」

我ながら強引で子供っぽいとは思う。
けれど、この日は麗花との貴重で楽しい一日にしたかった。
< 39 / 69 >

この作品をシェア

pagetop