君と恋をするための三か条
悪いとは思いながらも、後ろをついていくように近づくと、目の前で女性が新に抱きついた。
正確には、よろけたのを新が受け止めたのだろうけれど、どうにもわざとらしい挙動と女性の表情からして私は確信する。

新のほうは、少し困ったような柔らかい笑顔だ。
大方、『まったく、ドジだなあ』なんて言っているのだろう。

あの二人の間には、恋がある。

気が付かなかった。
新には恋人がいたのだ。
たぶん、最近できたのだろう。

契約結婚を決めた時は、『モテるけど恋人はいない』とはっきり言っていた。
嘘をつく人ではないはずだ。

私は踵を返し、ホテルから出る。
ラウンジでお茶しようなんて考えは吹っ飛んでいた。

新に恋人がいた。新には好きな人がいる。

自分の部屋に帰っても、寝ても覚めてもいつまでも落ち着かなかった。

< 49 / 69 >

この作品をシェア

pagetop