君と恋をするための三か条
新が頭を抱える。
私の肩に舞ってきた桜を取り払い、私を見据える。

「麗花が見たのは多分、常連のお客さん。前に話しただろう?ことある事にシェフを呼べと騒ぐ人がいるって」

記憶はあの朝に巡る。
確かに言っていた。
新はそういう女性にはっきりと断る口実がほしかったと、契約結婚に乗ってきたのだ。

「その日、出勤したらホテルで待ち伏せされてて。ちゃんと言ったよ。『大切な人がいるから、気持ちには応えられない』って。もちろんその大切な人っていうのは、麗花のこと」

「新、」

私が口を開くのを阻止するように人差し指を唇に当てられる。

「ちょっとさ、仕切り直させてよ。一旦家帰ってから、ちゃんと聞いて」

聞けない。新が言わんとすることが痛いほど伝わるから、聞けない。

私こそ、新の気持ちに応えられないんだよ。

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